「生きづらさはどこから来るか -進化心理学で考える」という本を読んでいます。
著者は、情報工学者・心理学者の石川幹人さんです。
(どうして生きづらさを感じているんだろう?)とクヨクヨ考える癖が僕にはあって、その答えを見つけたいとよく考えています。
前に紹介した橘玲さんの「残酷な世界で生き延びるたった一つの方法」を読んで、ヒトが感じる「生きづらさ」を知るにはヒトが進化してきた過程を基にして心理を研究する「進化心理学」にヒントがありそうだ、と思いました。
この本は新書ですが、あとがきには高校生のために書いたとあります。高校生向けとは言え、内容は僕のようなオッサンが読んでも発見がたくさんあって面白かったです。
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「人はなぜ生きづらさを感じるのか?」
本書の中では2つの理由をあげています
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人類は自ら”選択”して環境の変化に適応できる、という可能性を持っています。つまり、行動を状況に合わせて選択することが可能になれば、解決策が多様になり、問題をよりうまく解決できるようになるからです。
しかし逆説的なことですが、行動を状況に合わせて自らそれを選択できるようになると、人類はそれだけ多くのことを考えねばならなくなりました。
人類は、このような高度な能力を身につけた結果、より多く考えねばならなくなった。つまり「生きづらさ」は、環境へ高度に適応したことの代償なのです。
この引用だけでは わかりづらいかもしれませんが、
人類は、生き延びるために「環境に適応する」ための選択肢を、他の動物よりもたくさん持っているということです。「選択できる」ということは自由度も高いけれど、選択するために考えなければいけないことが多くなります。それが生きづらさにつながる、という主張です。
動物に聞くことが出来ないのでわかりませんが、確かに人類以外の動物は「生きづらさ」なんて感じていないだろうなと思います。人類以外の動物は、「悪あがき」をせずに、環境への適応を長い時間かけて行われる進化にまかせて、とりあえずは日々を生き延びるために、本能で生きていくのだと思います。
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もう一つの理由は、
私たち人類の「心身」は一万年前からほとんど進化しておらず、一万年前の環境に適応したままになっているのです。
もう一つの悩みの源泉は、この「狩猟採集時代の心身」と「文明がもたらした環境」とのズレから生じています。
例えば、「他者のことがわかりにくくなってきていて 他者の行動が理解できない」という悩みが大きくなってきているということがあげれます。
狩猟採集時代から、人間は他者の理解を通して協力活動をしてきました。よって、他者を理解できることがあたりまえのように「進化していない心」は働きます。なので、他者を理解できなくなると、それが悩みになります。
狩猟採集時代は、他者の理解が容易でした。一つは他者を理解する時間的余裕がたくさんありました。もう一つは、他者の行動が比較的単純だったためです。
狩猟採集時代の集団は100人程度で、一生同じ人々同志で生活し続けるのだから、他者を理解する機会は長時間ありました。それに比べて現代は、一生の中でつきあう人数はとても増えています。つきあう時間が少ないのだから他者の理解は進みません。
また、狩猟採集時代の仕事は限られているのでメンバーの行動も単純でした。比べて現代では仕事が多様になりました。いろいろな仕事が現れれば、それぞれの仕事にふさわしい特徴のある人間が必要になり、人間の行動にバラエティが現れます。人々の特徴が多様化した現代では、他者の理解はなおさら難しくなります。
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この本を読んで、「生きづらさを感じる理由がわかった!」「だからこうすれば良いんだ!」とまでは いきませんでした。
人間が多様なように、生きづらさを感じる理由も多様なのだから、当然といえば当然です。
僕にとって、響いたところもあれば、よくわからないところもありました。
ただ、普遍的に人類が感じる「生きづらさ」については理解が深まりました。
幸せに生きていくための代償に「生きづらさ」がうまれたのなら、ちょっとくらい生きづらくても仕方ないかな、と感じさせてくれる本でした。
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